量子技術への新たな一歩として、科学者たちは「輝く」量子ビットを合成する(シカゴ大学)

シカゴ大学とノースウェスタン大学の科学者による革新的な取り組みにより、コンピューティング、センシングが強化される可能性が見いだされた。

量子力学の不思議な力を利用する能力を持つ量子ビットは、強力な新しいタイプのコンピュータや超精密なセンサーのように、世界を変える可能性のある技術の基礎となる。

キュービット(量子ビットの略)は、私たちが日常的に使っている電子機器と同じ半導体材料で作られていることが多い。しかし、シカゴ大学とノースウェスタン大学の物理学者と化学者の学際的なチームは、量子情報を磁気状態、つまり「スピン」状態にコード化する分子を化学的に合成することで、オーダーメイドの量子ビットを作成する新しい方法を開発した。

この新しいボトムアップ・アプローチは、最終的には並外れた柔軟性と制御性を持つ量子システムにつながる可能性があり、次世代の量子技術への道を開くのに役立つであろう。

「これは、強力でスケーラブルな量子技術の概念実証です」と、同僚であるノースウェスタン大学化学教授 Danna Freedman氏とともに研究を主導した、シカゴ大学プリツカー分子工学部のリューファミリー分子工学教授、David Awschalom氏は述べた。「私たちは分子設計の技術を利用して、量子情報科学のための新しい原子スケールのシステムを作ることができます。この2つのコミュニティを一緒にすることで関心が広がり、量子センシングと計算を強化する可能性があります。」と続けている。

結果は11月12日付の雑誌「Science」に掲載された。

キュービットは、重ね合わせと呼ばれる現象を利用して動作する。従来のコンピュータで使用されている古典的なビットが1または0を測定するのに対し、キュービットは1と0を同時に測定することができる。

研究チームは、スピン状態がクビットとして利用でき、外界と容易に相互作用できる分子を開発するためのボトムアップ型の新しいアプローチを模索していた。そのために、有機金属クロム分子を使用し、光やマイクロ波で制御できるスピン状態を作りだした。

精密に制御されたレーザーパルスで分子を励起し、放出された光を測定することで、分子を重ね合わせた後の分子のスピン状態を「読み取る」ことができた。

合成化学を用いてこれらの分子の原子をわずか数種類変えることで、光学的特性と磁気的特性の両方を変更することができ、オーダーメイドの分子クビットの可能性を強調したのだ。

「シカゴ量子取引所の所長、そしてアルゴンヌ国立研究所が率いるエネルギー省の国立量子情報科学研究センターであるQ-NEXTの所長でもある Awschalom氏は、「ここ数十年の間に、半導体中の光学的にアドレス可能なスピンは、量子センシングを含むアプリケーションにおいて非常に強力であることが示されてきました。」と述べた。また「これらのシステムの物理学を分子構造に換えることで、合成化学の強力なツールボックスが開かれ、我々が探索を始めたばかりの新しい機能が利用可能となります。」と語っている。

「我々の成果は、合成化学の新しい領域を切り開いた。私たちは、対称性と結合を合成的に制御することで、半導体の欠陥と同じ方法で対処できるクビットが生成されることを実証しました。」続けて「我々のボトムアップアプローチは、個々のユニットをターゲットアプリケーションのための ”デザイナーズ量子ビット” として機能化すること、容易に制御可能な量子状態のアレイを作成することの両者を可能にし、スケーラブルな量子システムの可能性を提供しています。」と、Freedman氏は述べている。

これらの分子の応用の可能性の1つは、特定の分子を標的とするように設計された量子センサーである。このようなセンサーは、体内の特定の細胞を見つけたり、食品の腐敗の検出、また危険な化学物質を発見することが可能である。

このボトムアップアプローチは、既存の古典的な技術と量子技術を統合するのにも役立つかもしれない。

シカゴ大学プリツカー分子工学大学院のオーシャロムグループ博士研究員で、論文の共同執筆者である Sam Bayliss氏は、「量子技術が直面している課題のいくつかは、この全く異なるボトムアップのアプローチで克服できるかもしれません」と述べ、「発光ダイオードに分子システムを使用したことは変革的な変化であり、おそらく同様のことが分子クォビットでも起こる可能性がある。」と続けた。

ノースウェスタン大学の大学院生であり、共同執筆者でもある Daniel Laorenza氏は、この分野の化学イノベーションに大きな可能性を見出している。 「このように量子ビットの周囲の環境を化学的に特異的に制御することは、光学的にアドレス指定可能な分子量子ビットを様々な環境に統合するための貴重な機能を提供します。」と同氏は述べている。

シカゴ大学の大学院生である Peter Mintun氏と Berk Diler Kovos氏もこの論文の著者である。

引用:量子情報処理のための光学的にアドレス可能な分子スピン

「Science」2020年11月12日付 著者:Bayliss氏ら

DOI: 10.1126/science.abb9352

資金提供:海軍研究室、国立科学財団、エネルギー省

【原典】In new step toward quantum tech, scientists synthesize ‘bright’ quantum bits

URL;https://news.uchicago.edu/story/new-step-toward-quantum-tech-scientists-synthesize-bright-quantum-bits

関連記事

  1. 幹細胞はどのようにしてキャリアを選択するのか (カリフォルニア工科大学)

  2. 東京大学発AIベンチャー、ドラレコ映像から自動で個人情報を除去するAIを開発

  3. タンパク質の3次元構造を決定するためのソフトウェア(プリンストン大学)

  4. 顕微鏡のビッグデータのボトルネックを解決(クイーンズランド大学)

  5. EZONEが、業界と学生のエンゲージメントを実現(西オーストラリア大学)

  6. NUSのチームがスマートフォンからワイヤレスで動力を得られる スマートスーツを開発(シンガポール国立大学)

  7. 「地方創生プロジェクト学生会議」開催地域活性化を目指して学生がオンラインで意見交換

  8. ユニークな化学物質が鉄鉱石の採掘廃棄物から鉄鉱石を回収するのに役立つ(西オーストラリア大学)

  9. シンガポール国立大学(NUS)がインフラ、教育、生涯学習に注力