研究者チームは、分子コンピューターの鍵の一つとなる可能性のある、単分子エレクトレットを初めて実証した。
より高度なコンピュータなどを開発するためには、電子機器の小型化が欠かせない。これにより、シリコンチップを分子に置き換える方法を模索する動きが活発化しており、超小型不揮発性記憶装置のプラットフォームとなりうるスイッチングデバイスである、単分子エレクトレットの開発などが行われている。しかし、そのようなデバイスは非常に不安定であると思われたため、この分野における多くの人々はそれらのようなデバイスが実際に存在するのかどうかを疑問視していた。
電気工学・応用物理学教授である Mark Reed氏( the Harold Hodgkinson )は南京大学、中国人民大学、厦門(アモイ)大学、レンセラー工科大学(RPI)の同僚と共に機能メモリを用いた第一分子エレクトレットのデモンストレーションを行った。この結果は、10月12日付のNature Nanotechnology誌に掲載された。
エレクトレットの多くは、スピーカーで音を出すような圧電材料でできている。エレクトレットでは、対になっている電荷の対である双極子が自然に同じ方向に並んでいるが、電界を加えることでその方向を逆にすることが可能である。
「本質的にメモリ記憶装置であるエレクトレットをどれだけ小さくできるか、ということが常に問題になっていたのだ」 と Reed氏は語った。
研究者らは、バックミンスターフラーレンとも呼ばれる32面の分子であるカーボンバッキーボールの中に、ガドリニウム(Gd)の原子を挿入した。研究者らがこの構造体(Gd@C82)をトランジスタ型の構造体に入れると、彼らは単電子輸送を観測し、そのエネルギー状態の理解に用いた。しかしながら、真の突破口は電場を利用し、そのエネルギー状態をある安定な状態から、別の安定な状態に切り替えることができると発見したことだった。
「何が起こっているかというと、この分子はあたかも2つの安定した分極状態を持っているかのように振る舞っているのです」 と Reed氏は述べた。また、チームは電場をかけながら輸送特性を測定したり、状態を前後に切り替えたりと様々な実験を行ったと付け加えた。「読んで、書いて、書いて、読んで、書いて ” という記憶を作ることができることを示した」と同氏は語った。
Reed氏は、現在のデバイス構造はどのようなアプリケーションにも実用的ではないが、その背後にある根底的な科学はそれが可能であることを証明していると強調した。
「この中で重要なことは、分子内に自発的な分極を引き起こす2つの状態と、切り替え可能な2つの状態を作り出すことが出来ると示していることです」 と彼は述べ、「これは、記憶を文字通り一分子レベルにまで縮めることができるというアイデアを人々に与えることができます。 それが可能であることがわかった今、私たちはそれを使ってもっと面白いことができるようになるでしょう」と続けた。
【原典】Researchers Create a Single-Molecule Switch – a Step Toward Ever-Smaller Electronics
(OCT 12 2020)
URLhttps://seas.yale.edu/news-events/news/researchers-create-single-molecule-switch-step-toward-ever-smaller-electronics